1.日時 | 2013年8月10日(土) 10:00~12:00 |
2.場所 | 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ 5階大セミナールーム |
3.講師 | 武蔵野大学名誉教授 春原由紀 |
4.参加者 | 40名 |
DV防止講演会「女性に対する暴力のない社会を目指して」と題し、武蔵野大学の春原由紀名誉教授にご講演いただきました。
まず初めに、内閣府の「配偶者からの暴力に関するデータ」等を用いて、女性に対する暴力の現状と実態をご紹介いただきました。調査によると、日本では約4人に1人が配偶者からのDV被害を受けたことがあり、被害者の多数は女性です。
DVによって女性が受ける被害は、目に見える身体的な影響だけにとどまらず、PTSD(外傷性ストレス障害)、うつ状態、乖離、自己評価の低下、判断力・決断力の弱化、社会的孤立といった慢性的な疾患をもたらします。なかでもPTSDは、浸入(過去の被害経験が、あたかも今起きているかのように感じること)、回避(過去の被害経験から、日常生活の些細なことに対して異常に反応してしまうこと)、過覚醒(覚醒状態が維持されること。悪夢、不眠などが特徴的な症状)など、DV被害から逃れた後も、長期に渡って被害者を苦しめることになります。
■DVを受けるということ
まず、暴力は、他人の行動を支配するために使われます。つまり、相手を自分の思い通りにする手段として暴力を振るうのです。その結果、暴力を受けた側は恐怖から自分で考えることをやめ、自立する能力を奪われます。加害者は、支配を正当化する文化や社会制度の中で、「疑問の余地のない真実」として暴力を受け入れており、戦前の日本のように、暴力を前提に秩序を守る社会文化がそこにあります。
次に、認知行動療法におけるABCモデルをご紹介いただきました。思いがけない出来事(Activated event)に対しては、信念・認知(Belief)をもとに、結果・感情・行動 (Consequence)が発生します。例えば、「部屋が片付いていない」という出来事に対して、「妻は疲れている夫の気持ちが分からないのか」「男は大事にされるべきである」「家事をきちんとするのが妻の仕事だ」と考えるのか、「子育てに忙しいのだろう」「いつも家事を妻ばかりに任せていてはいけない」と考えるのかでは、その後の行動が大きく違います。前者の考え方の結果として起こるDVは、加害者が選択して振るう暴力なのです。つまり、信念(考え方)が変化すれば、感情が変化し、行動は選択可能だということです。
さらに、多くの人が、暴力の責任の所在について、加害者が何パーセント、被害者が何パーセントと考えていることが問題点として指摘されました。暴力を振るわれる側にも落ち度があったから、暴力を振るわれても仕方がないという考え方です。妻の行動は100%妻の責任で、夫の行動は100%夫の責任です。暴力の加害者の責任は、100%加害者にあるのです。
■DV環境で育つ子どもの受ける被害
児童虐待防止法の改正によって、子どものDVの目撃も、児童虐待として位置づけられるようになりました。DV環境で育った子どもたちは、自身が直接の虐待を被った子どもたちと同じような症状を呈しています。多くの子どもがDV環境の辛い経験を未整理のまま抱え込むことで、世代間連鎖にもつながることが指摘されました。DV環境で育った子どもたちに見られる行動への影響として、暴力・攻撃性、発達障害、注意欠如、多動性障害などが挙げられ、感情への影響として、自責感、罪悪感、無力感、不安感、緊張感、孤立感などが挙げられました。さらに価値観への影響として、暴力の正当化、男性は女性より優れている、愛情があるから支配する、強いものは弱いものを支配してよい、といった誤った認知を学習することも指摘されました。
■回復と自立への支援に向けて
DV被害からくるさまざまな困難は、加害者から離れ、安全な状況に身をおくことができた後、浮かびあがってくることが非常に多いそうです。被害者が回復するためにはさまざまな複合的な援助が必要になるため、一時的ではなく、長期にわたる継続的な支援が大切であると、結論付けられました。