国連社会経済理事会(ECOSOC)のNGO協議資格を有する(公財)アジア女性交流・研究フォーラムは、国連本部で開催される国連女性の地位委員会(CSW=Commission on the Status of Women)に毎年参加しています。第57回目の開催となる今年は、「女性および女児に対するあらゆる形態の暴力の廃絶と防止」という関心の高いテーマのもと、現地でパラレルイベントを開催し、当財団のデートDV/DV防止に向けた取り組みについて、情報発信してきました。
今回の帰国報告会では、まず、KFAW企画広報課長より国連女性の地位委員会(CSW)についての説明がありました。
国連経済社会理事会(ECOSOC)の下部組織として位置づけられているCSWは、1946年にECOSOC内の独立した機能委員会として設置され、2013年現在45カ国が参加しています。各国のNGOに協議資格を与えており、NGOの参加率が高いことが特徴です。CSWの役割として、政治、社会、教育分野などにおける女性の地位向上に関し、ECOSOCに勧告、報告、提案などを行います。これまでに、女性の参政権に関する条約、既婚女性の国籍に関する条約、女子差別撤廃条約などの条約の原案の審議・作成を行い、各国の女性政策に影響を与えてきました。
CSWは毎年2~3月頃に、ニューヨークで開催されます。各国の代表が参加するCSW本会議開催にあわせて、サイドイベントやNGOフォーラム(パラレルイベント)など、多くのイベントが開催されます。
CSW本会議は、各国の代表が参加し決定事項を公式に発表する場で、一般討議、ハイレベル円卓会議、パネル討議を経て、優先テーマに関する合意結論がなされます。今回のCSW57では、各国さまざまな意見が出て難航しましたが、会期の最終日に合意結論がなされました。最終日に退任を発表したUN Womenミチェル・バチェレ事務局長が、自身の最後の仕事として、合意に向けて大変ご尽力されたようです。報告会では合意結論の事例として「北京行動綱領や国際人口開発会議で採択された行動計画に沿ったリプロダクティブ・ライツ/ヘルス」や「レイプされた場合に緊急用避妊剤の使用を推奨」すること、「女性人権活動家の保護」などを説明しました。
CSWの本会議と並行して開催されるNGOフォーラムは、国連周辺の複数会場で開催され、各国のNGOが独自のイベントを行うことができます。今回KFAWは、このNGOフォーラムに参加し、デートDV防止に関するセミナーを開催しました。国連本部で開催される本会議やサイドイベントとは異なり、NGOフォーラムは誰でも自由に傍聴することができます。1イベントにつき90分が割り当てられ、NGOが独自の主張を自由に発表できる場になっています。NGOによってはNGOフォーラムを政策に影響力を与える場として活用している側面もあり、いわゆるロビー活動の場にもなっています。
今回のCSW57の特徴としては、関心の高いテーマ(女性への暴力廃絶)を反映して参加者数が例年に比べ格段に多かったことと、極めて難しいテーマに対し、最終的に合意結論が得られたことがあげられます。
続いて、KFAWのパラレルイベントで報告した篠崎正美 前KFAW主席研究員から、「学校教育におけるデートDV/DV予防教育の展開」について報告がありました。
KFAWでは以前から、アジアにおけるDVの実態や法整備の状況、支援団体の情報などの収集をとおして、DV/デートDV予防教育の必要性を認識してきました。
2009年に北九州市からの委託を受け実施した調査結果によれば、半数以上の先生方がデートDVの予防啓発教育の必要性を指摘しています。それを受けて、2010年には、学校教育の現場や市民センターなどで、実際にデートDV予防教育授業を率先して行える人材の育成を目標として、KFAWデートDV予防教育ファシリテーター養成講座を実施しました。
2011年には養成講座の修了生を、実際に北九州市内の学校へ派遣し、延べ22校、約5,000人を対象に出前講座を実施しました。受講前と受講後のアンケートでは、DVに対する生徒の認識にも大きな変化があり、「ちょっと無視したり、メールの返信が無いことに怒ったりすることが、デートDVだとは知らなかった」「嫉妬や束縛など、今までは愛情表現だと思っていたことが、実はデートDVだということを知って驚いた」といった感想等が寄せられました。
さらに2012年には、KFAWデートDV予防教育ファシリテーター養成講座の修了生が、市民グループ「リップルふくおか(デートDV防止ふくおか)」を結成し、現在も精力的にデートDVの予防啓発活動を行っています。
最後に、リップルふくおかの寒水章納副会長から、市民グループによるデートDV予防教育について報告がありました。実際に出前講座で使用しているプログラムの内容説明と、受講した生徒、先生の反応から、今後の課題があげられました。まず、①指導要領など、決められたカリキュラム以外のものは授業に取り入れにくい、②教員の人権意識がさまざま、③全ての生徒にいきわたらない、といった学校教育に入っていく難しさがあげられ、④限られた時間内で全てを説明することができない、といった講義の限界についても触れられました。さらに、⑤教員、親へのアプローチができていない、⑥知識の供給が行動変容につながるとは限らない、といった問題点があげられました。
今後KFAWとしても、デートDV防止ファシリテーター養成のフォローアップ講座の開催や情報提供など、デートDV防止に関する事業を継続して実施する予定です。
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