憲法による保護や国際的な取り決めにもかかわらず、様々な資料はGBVが様々な形で全国的に存在することを示している。ロイター財団が2022年に発表した報告書によれば、パキスタンは、女性にとって全体的に危険な国として上位6位、家庭内暴力ではワースト5位に位置しており、国際的に見て女性の安全が確保されていない国である。
国家人権委員会(NCHR)は2023年3月8日、政策概要13を発表し、パキスタンにおける3年間のGBVの事例が約6万3000件に上ると報告した。特に懸念されるのは、Covid-19の蔓延を緩和するために実施されたロックダウンに端を発する2020年前半に始まったGBVの急増である。ロックダウンが実施された後、最初の半年で約4,000件のGBVが報告されたが、その後の2年半では、半年あたり平均10,500件のGBVが報告された。このGBVの急激な増加は、ロックダウンによる家族の時間の増加とDV事件の悪化との間に強い相関関係があることを浮き彫りにしている。これらのケースの80%は家庭内暴力に関連するものであり、約47%は既婚女性が性的虐待を受ける家庭内レイプに関連するものだった。このデータは報告されたケースに基づくもので、実際の件数はさらに多いことが懸念される。
パキスタンのパンジャブ州で1,000人の女性を対象に行われた調査によると、既婚女性の70%から90%が、配偶者からの虐待や家庭内暴力を経験している。配偶者やその他の男性親族による女性への暴力は、パキスタンで最も蔓延している暴力の形態である。また早期の児童婚は、配偶者による暴力の主な原因のひとつである。未成年の少女は結婚生活の責任を負うほど成熟しておらず、そのために配偶者やその他の親族から暴力を受けている。暴力は肉体的なものだけでなく、心理的なもの、言葉によるもの、経済的なものなど様々である。このような恐ろしい行為を引き起こす原因はいくつもある。その最たるものが、パキスタンにおいて家父長制が敷かれ、男性優位が広く見られるという事実である。
最近発表された『パンジャブ・ジェンダー・平等・レポート2022』14は、女性に対する暴力事件が驚くべき頻度で発生していることを露わにしている。報告書では、パンジャブ州単独の女性に対する暴力事件を取り上げている。しかし、国内の他の地域でも、同様に女性に対する暴力事件が発生している。パンジャブ警察監察官事務所が2022年に収集したデータ15によると、パンジャブ州では34,854件もの女性に対する暴力事件が報告されており、最も多い犯罪は誘拐であった。また、この1年間に1,024人の女性が殺害された。殺害された女性のうち、395人が家庭内暴力で、176人が名誉殺人16、453人がその他の動機で命を落とした。パキスタンの他の州における有罪や無罪の割合を示す具体的な数字はないが、パンジャブ州で報告されたGBV事件のうち、有罪判決を受けたのはわずか4%で、96%は無罪判決に終わっている。
すべての性別、特に女性が暴力、虐待、差別、搾取から保護される暴力のない社会を実現するために、パキスタン政府、NGO、権利擁護団体が協力し、その努力の結果、優れた連邦法、州法17が制定され、その実施のための強力な制度も施行されている。パンジャブ・パキスタンにおける法整備の好例として、夫、兄弟姉妹、養子、親戚、家庭内雇用主による家庭内、性的、心理的、経済的虐待、ストーカー行為、サイバー犯罪から女性を守ることを目的とした「パンジャブ対暴力女性保護法」(The Punjab Protection of Women against Violence (Amended) Act 202218)の施行が挙げられる。2022年のPPWAV法改正後、パンジャブ州女性保護局のもとに設立されたパンジャブ・パキスタンの地区女性保護センターは、ひとつ屋根の下でGBVサバイバーにサービスを提供している。
2022年の「職場におけるセクシャル・ハラスメント防止法」(The Protection against Harassment of Women at the Workplace (Amendment) Act, 202219 )も非常に良い法律である。これは職場の定義を拡大し、正規の職場と非正規の職場の両方を包含するものである。この新しい法律で保護されるのは、特に職場での暴力やハラスメントのリスクが高い家事労働者も含まれている。この法律においてハラスメントの定義が拡大され、「性別を理由とする差別(性的であるかどうかは問わない)」も含まれる。これまでに寄せられたハラスメントに対する訴えのデータは、詳細な報告書20に記載されている。
トランスジェンダーをハラスメントや差別から保護し、救済し権利の擁護を図り、福祉を増進するために、「2018年トランスジェンダー(人権保護)法」(The Transgender Persons (protection of rights) act 201821)がパキスタンの国会で可決された。「反レイプ(調査および裁判)法(2021年22」(Anti-Rape (Investigation and Trial) Act 2021 )第13条1項は、GBVの被害者の医学的・法的診察のための2本指処女検査を明示的に禁止している。GBV法廷でのオンカメラ審理 も、GBVサバイバーが事件について適切に語ることができるように行われている。
パキスタンは、最近の積極的な法整備の後、ジェンダーに無関心な状態から、正式な制度によっていくらかジェンダーを考慮する状態へと移行した。パキスタンの女性たちは、自分たちの権利についてゆっくりと少しずつ理解し、そのために闘い、声を上げている。しかし、女性の安全を確保するまでの道のりは遠く、パキスタンにおけるGBVを根絶するための総合的な取り組みが急務である。