1.日時 2021年3月16日(火)14:00~15:15
2.場所 北九州市大手町ビル5階 大セミナールーム(オンライン視聴会場)
報告「国際家族年前後の家族をめぐる論点の整理 -国際比較のための基礎的研究-」
蜂須賀 真由美(㈱エムアンドワイコンサルタント)
共同研究者 佐野 麻由子(福岡県立大学人間社会学部准教授)
KFAWでは、ジェンダーや男女共同参画に関するさまざまな課題について、客員研究員による調査・研究を行っています。 これは、国際的動向や視点から見ることによって、国内の課題を明らかにし、ひいては北九州市の男女共同参画の実現に 貢献しようというものです。2019/20年度の2年間にわたる客員研究員の研究報告会を開催しました。
国際家族年(1994)とは「家族からはじまる小さなデモクラシー」をモットーとし、「家族:変わりゆく世界における資源と責任」をテーマに1989年に国連総会で採択された国際年です。「家族は社会の基本単位」として各国における政策の論点になっていますが、①なぜ、この時期に「国際的な関心事」として扱われることになったのか、②その趣旨は何であったのか、③仮に国際家族年が当時の家族問題に対応するための動きであったとすれば、背景にはどのような家族の動態変化があったのか、という三つの問いを起点とし、家族研究の論点整理の視点から、国際家族年制定の背景には家族内の権力関係や性別役割分業への関心の高まりがあったのではないか、家族形態、個人化や親密性の変容、家族機能の変容、同性愛のパートナーシップという点での家族の変容ならびにそれらへの対応の必要性があったのではないか、と仮定しました。
分析の結果、上記①制定の時期についてその源流には1948年の世界人権宣言以降の国連が取り組んできた人権擁護の理念、「社会の進歩と開発に関する宣言」(1969年採択)を起点とした国連総会決議「世界社会開発」(1978年採択)、国連総会決議「社会の進歩と開発に関する宣言の実装」(1979年採択)等、社会開発への関心があったことを示しました。②その趣旨については、国際家族年の理念に依拠し、「家族成員の福祉の源泉となる家族が抱える課題への関心の喚起」にあることを示し、これまでの政策で断片化されていた、女性、障害者、高齢者、児童といった多様な属性の人々を包括的に開発の恩恵に組み込むためのフォーカルポイント(注視点)として「家族」が注目された点を提示しました。③国際家族年制定の背景にある家族の動態変化については、先進国・途上国を問わず、開発・発展に伴う資本主義化、産業化、都市化の過程で、家族の小規模化、家族のライフサイクルの変化、家族の役割の変化が生じていることが国連の議論の場で認識されていたことを示しました。特に、2回の石油危機による経済の減速、それに対応するための先進国・途上国での福祉国家の見直しや自由主義の推進が社会開発の後退を招き、さらに、途上国における家族機能の弱体化を招いたという問題認識が、家族福祉への関心を強化し、結果的に国際家族年制定につながったことを示しました。また、直接的な議論では同性愛のパートナーシップに言及はなく、同時代のフェミニズム運動の間接的な影響(汎アメリカ家族年(1983))があったことも言い添えておきます。