HOME >> 活動報告 >> 調査・研究

調査・研究

第31回KFAW研究報告会(2020年12月6日)

1.日時 2020年12月6日(日)13:00~16:00
2.場所 北九州市大手町ビル5階大セミナールーム

報告① 日本とシンガポールにおけるDV被害を受けた母子への支援と法制度に関する一考察
  小川 真理子(東北大学男女共同参画センター准教授ほか)
報告② 地方議会の女性議員増加をめざして-日・台統一地方選時の比較調査から-
  王 貞月  (福岡女性学研究会 代表)
報告③ 女性視点のキャリア形成促進に向けた研究-福岡県と鹿児島県におけるインタビュー調査を基礎として-
  高丸 理香(静岡大学国際連携推進機構 特任准教授)

 KFAWでは、ジェンダーや男女共同参画に関するさまざまな課題について、客員研究員による調査・研究を行っています。 これは、国際的動向や視点から見ることによって、国内の課題を明らかにし、ひいては北九州市の男女共同参画の実現に 貢献しようというものです。2018/19年度の2年間にわたる客員研究員の研究報告会を開催しました。

 

 報告①

台湾では地方議会の女性議員(以下、地方女性議員と略記)が4割近くを占めアジアの上位にあり(日本では都道府県議会の女性比率は10.1%(2018年12月31日))、要因として地方議員へのクオータ制の導入と女性の政治参画を要求する女性運動の影響が考えられます。クオータ制を導入している国や地域は120以上ありますが、効果が上がらず中止した例はなく、日本の地方女性議員を増加させるためには、クオータ制の導入が何よりも重要であると考えられます。他にも台湾には議員有給アシスタント制度、仕事を辞さなくても立候補ができる制度などがあり、見習うべきところは多いといえます。仕事と議員の両立は当然の権利であるという、社会的コンセンサスを浸透させていく必要があります。


 

 報告②

女性労働者の雇用環境改善と社会的地位向上のための取り組みを研究するに当たり、学生募集用の大学案内から最も大きく書かれたメッセージを収集し地域ごとにまとめた比較分析を行いました。地方の女子大学では「なでしこ」「しなやか」などの表現が多く見られ受動的で控えめな態度を望む地域社会の期待がみられました。九州全域の男女大学生を対象とした質問紙調査では女子学生の方が「会社や所属にこだわりなく働き続ける」イメージを持つことなどが見られました。さらに女性労働者に対してTEM(複線経路・等至性モデル:Trajectory Equifinality Model)での調査を実施した結果、転職、降格・降級や昇進拒否といった選択、働く場所や立場を“渡り”ながら、自らの意思を尊重したキャリア形成を行う女性労働者の姿が見えました。現在の労働環境改善の努力は、労働者の生活状況を考慮しない労働者モデルや、勤続年数や社風の尊重などメンバーシップ型の雇用体制を前提とする点で、女性労働者の願いに沿うものではなかったのです。そのため、女性労働者たちは置かれた状況と労働条件とを天秤にかけたうえで、自らが納得できるような選択を試みているのです。

 


 報告③

シンガポールはアジア圏で最もDV被害者比率が低く、虐待全般への対応を目指して成年弱者保護法を施行し、女性憲章共に虐待被害者支援の新たな段階に入っています。日本のDV被害母子への支援は、運用上の問題が依然として残されており、特に福岡・北九州調査では、「子ども・家庭相談コーナー」の子ども・家庭相談員の待遇が不安定であり、DV施策等を決定する行政の意思決定過程に組み込まれていないことが指摘され、支援のノウハウが蓄積しにくい構造をどのように改善していくのかが課題として挙げられました。以上から、国はDV対応の自治体間格差を解消するために、ある程度統一した支援の基準を示すことが必要であること、児童虐待とDVを含むFamily Violenceの視点からの調査研究の実施と分析、児童虐待対策とDV対策の連携強化が必要であること等の提言を行いました。