2011年9月に交流協力協定を締結した韓国・仁川広域市の仁川発展研究院(IDI)を訪問することになりました。今回の目的は、IDIのキム・ミンベ院長に北九州市での講演をお願いすること、仁川広域市の女性団体と北九州市の女性団体との交流の可能性を探ることです。 |
8月29日(水)仁川広域市へ
福岡空港10:30発の飛行機が台風15号の影響で大幅に遅れ、アナウンスによると出発が15:30の予定とのこと。本当に飛行機が出発するのか不安な中で、福岡空港内で約6時間も待機しました。
15:40にようやく福岡空港を出発。予定より大幅に遅れて17:30に仁川空港に到着しました。本来の予定では14:30に仁川発展研究院(IDI)を訪問してキム院長と会談する予定だったので、大幅な遅刻です。日本を発つ前に、IDIには到着が遅れることを伝えていたのですが、なんと、キム院長自身に仁川空港まで出迎えに来ていただきました。
時間が押していたので空港内で協議をすることになり、喫茶店に移動することになりました。それにしても広い空港です。アジアのハブポートという表現も大袈裟ではないと感じました。しばらく空港内を歩いて、今回の「臨時会場」となる喫茶店に到着。お忙しい中、無理してスケジュールを調整していただいたキム院長とIDIの皆さまに感謝です。
キム院長には、2013年2月2日に北九州市で開催する「第5回日韓セミナー」の基調講演者としての出席を、快く引き受けていただきました。また、2012年11月10日に開催する「第23回アジア女性会議-北九州」のパネリストとして、仁川広域市出身で韓国の性暴力防止法の制定に尽力されたパク・インヒェ氏を推薦していただきました。お二人からは北九州講演で有意義なお話をお聞かせいただけることでしょう。非常に楽しみです。
さらに、キム院長からはいろいろと興味深いお話を聞くことができました。仁川では、都市部の一部地域において、北朝鮮からの脱北者のコミュニティが形成されているとのこと。この脱北者の中には、韓国の文化に馴染めない人たちも多く、子ども達の中にも学校のカリキュラムについていけないといった問題が発生しているようなのです。日本ではそのような情報は入ってこないので、大変貴重なお話でした。
また韓国では、東南アジアからの就労者も多く、様々な多文化共生の問題があるようです。農村部においては外国人妻の問題もあり、キム院長は「多文化共生における最大の問題は、偏見などの意識の問題だ」とおっしゃっていました。
2013年2月の第5回日韓セミナーにおいて、キム・ミンベ院長に「多文化共生」というテーマで基調講演していただく予定です。このような韓国の貴重な情報をお話しいただけると思います。ご期待ください!
8月30日(木)施設訪問
【仁川発展研究院(IDI)訪問】
IDI(正面玄関) |
当初29日に訪問する予定だったのですが、急遽30日の朝にIDIを訪問することになりました。台風15号は遠くに過ぎ去って行きましたが、なんと次の台風が接近しており、雨模様の天気です。風はさほど強くないのが救いですが、帰りの飛行機が無事に飛ぶのか心配です。そんな怪しい天候の中、IDI担当者のイ・チュンスクさんの案内でIDIへ向かいました。
IDIは、仁川広域市の様々な地域政策の策定や課題解決のために設立された調査・研究機関です。総務企画部、政策研究部と、女性の地位向上にかかわる政策・教育プログラム開発などの調査研究を行う仁川女性政策センターの3つのセクションがあります。スタッフは100名程度在籍しており、うち女性は30%程度だそうです。近年、女性研究員の数は増加傾向にあるとのことでした。
IDI会議室での懇談 |
女性分野の研究は今後強化していく予定で、前述の仁川女性政策センターは、女性文化会館(仁川に4ヵ所あり、女性の社会教育やスポーツ教育、文化センターの機能を持つ)と合併して「女性家族研究院」として独立する予定です。合併後は、女性のリーダシップ育成(女性政治家の育成)などの機能を充実させるとのことでした。また、韓国では日本以上に少子化が進んでおり、これを克服するための保育政策が最も大きな政策課題となっているそうです。
【ワンストップサポートセンター視察】
証拠採取セット |
次に向かったのは、仁川広域市医療院に設置されている「ワンストップ支援センター」です。この施設は、女性への暴力、DV、性暴力、校内暴力などに迅速に対応し、被害者の苦しみを最小限に抑えることを目的に、仁川医療院、仁川広域市、仁川地方警察庁の3者協定により設立されました。
医師、女性警察官、カウンセラーなどが常駐し、24時間体制で被害者に対して様々な医療・相談・捜査・法律などのサービスを実施します。今年で開設6年目になり、12名のスタッフが常駐しています。相談経路は警察を通して通報されるケースが98%で、他に被害者自身が通報したり、被害者保護のNGOを通じて通報されるケースもあるそうです。
通報を受けてまず行うことは、暴力の証拠の採取です。これが非常に重要で、強姦等の場合72時間以内に迅速に証拠を採取する必要があります。そのための証拠採取セットが各種準備されており、システマティックに採取する体制が整えられています。証拠があれば、加害者をほぼ100%起訴できるそうです。
ワンストップサポートセンターでは、被害者が心理的安定を取り戻すことを重視しています。専門のスタッフが心理的治療を行い、一日でも早く日常生活に戻れるようにサポートすることを心掛けています。心理的治療の内容としては、絵を描いたり、音楽を使ったりする方法があるそうです。また身体的被害のサポートに関しては、怪我、性病、避妊に関するケアを実施しています。
韓国では、暴力犯罪自体が増加傾向にあり、昨年はセンターで1355件の被害者相談があったそうです。加害者に対する罰則は日本より厳しく、場合によっては加害者に化学的去勢(薬物去勢)を実施することもあるそうです。判決によっては加害者にGPSの装着を義務付ける場合もあるとのことで、非常に考えさせられる視察でした。
被害者から事情聴取する部屋 | 証拠品を入れる容器 |
【ひまわり児童センター視察】
次に向かったのは、民間医療機関であるギル病院(嘉泉大学)に設置された「ひまわり児童センター」です。ここでは、児童性暴力被害者とその家族を対象とした医療、法律などのサービスを提供しています。今年で設立3年目、当初は13歳未満の児童を対象としていましたが、今年から19歳未満が対象になったそうです。
相談件数は年間約200件程度だそうですが、今年から19歳未満が対象になったことから、上半期だけで、すでに150件の相談があったとのことです。ここに来る児童被害者の60%~70%はネットや電話で自ら相談に来ます。小さい児童は保護者が連れてくる場合が多く、ワンストップセンターや学校・児童施設からの相談もあります。
心が痛む話ですが、加害者は被害児童の知り合いである場合が多いそうです。家族が加害者である割合が25%、教師が25%、その他の知り合いが20%とのこと。家族が加害者の場合は、家族分離(加害者のみ分離)が原則になります。被害児童を避難させるシェルターもありますが、シェルターには性被害者だけではなく、児童虐待被害者や孤児なども避難しているため、全国的にシェルターは不足しているとのことでした。
このセンターでのサポート期間は約6カ月程度、長い時には1年かかることもあるそうです。法的支援サービスとしては、通報時・裁判時の支援、代理証言や、裁判費用の支援などを実施しています。今年から、被害者の法的知識の不足を補うため、弁護士が保護者の代理となる法律助力人制度も実施されています。
児童を対象とした施設なので、砂場や人形、楽器等を用いた心理的な療法を準備しています。ケアルームにある砂場や人形の遊び方によって、児童の精神状態を確認したり、音楽(児童に自由に楽器演奏させる)による治療も行われています。
ケアルーム(砂場) | ケアルーム(音楽治療) |
【女性団体協議会との会合】
最後に、仁川の女性団体協議会の代表者の皆様とお会いしました。当初29日の予定でしたが、急遽変更して30日に昼食会を兼ねてお会いすることになりました。
食事をしながら、いろいろと貴重なお話を聞くことができました。韓国の女性団体の活動は非常に積極的で、全国規模で女性団体のネットワークが形成されており、韓国政府に対して政策提言を行うなど、かなりの政治力を持っているようです。
女性団体協議会代表者 | 昼食会 |
仁川の女性団体協議会は市内の25団体で構成されており、女性の社会進出の拡大、男女共同参画、健康な家族づくりを目的に活動されているそうです。具体的な事業としては、
- 女性自治大学の運営(女性政治家の育成)
- 生ごみを減らすグリーン成長運動(コンポストシステムの活用)
- 児童への読書指導者養成
- 仁川広域市の女性リーダーのモデルを紹介(女性リーダー交流会)
- マスコミに対するモニタリング活動(女性に対する偏見的な表現)
- 健康な家族づくり運動
など、幅広い活動を実施されています。
また、DV・性暴力相談所を女性団体協議会の直属で運営しています。社会福祉士や相談員を協議会が直接雇用しているということです。さらに、マスコミのジェンダー表現等をチェックするため、各団体から人を出し合ってモニタリング・チームを結成し運営しています。これだけの活動を行いながらも、資金は一部市から補助が出ているものの、基本的には会費で運営しているというから驚きです。
女性会館にて |
昼食の後、会場を女性団体協議会本部のある女性会館へ移動しました。こちらから北九州市の女性団体との交流を提案したところ、快く賛同していただけました。話によると1997年と2000年に女性団体協議会役員が北九州市を訪問したそうで、北九州市の環境都市としての取り組みに感銘を受けたそうです。
日韓の交流によってお互いの女性団体活動が活性化すれば素晴らしいことだと思います。今回の訪問が、日韓の女性団体交流の第一歩になりますように!
【番外編:仁川空港(帰国便)にて】
女性団体協議会との会合も終了して、帰国するため仁川空港に向けて出発です。雨も小降りになり、風も収まっているので、なんとか飛行機も飛びそうです。雨の中、女性団体協議会の皆様に見送っていただきました。空港へもIDIの担当者の方が車で送ってくださることになり、ご厚意に甘えることにしました。
仁川空港でIDIの方とお別れし、搭乗口へ向かいました。福岡空港行きの飛行機は約1時間遅れの表示が出ていますが、飛ぶのは間違いないようです。今回は台風に翻弄されましたが、今日中に日本へ帰れそうなのでホッとしました。ところが、手荷物預け場でトラブルが!
荷物を預けて係員にチケットを見せたところ、なんだか難しい顔をして黙り込んでしまいました。なんだろう、と思っていると「ちょっと待て」と言い残し、席から離れてどこかへ行ってしまったのです。待つこと約10分、係員は戻ってきたのですが、別の係員となにやら話し込んでいます。まさか、こんなところで足止めされるとは・・・しばらくして、係員が新しいチケットを持って私達に言いました。
「貴方達はラッキーだ。ビジネスクラスの席と交換した。このチケットを使うように」
なんということでしょう、エコノミーの席がビジネスクラスにグレードアップされました。よくわかりませんが、おそらく、航空会社のミスでエコノミーの席を二重発行してしまったのでしょうか?結果的に帰りは豪華ビジネスクラスの旅となりました。
台風に翻弄され、スケジュールも大幅に狂いましたが、IDIほか関係者の皆様のおかげで、実りある仁川訪問となりました。