1.日時 | 2018年12月8日(土)14:00~16:00 |
2.場所 | 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ5階 小セミナールーム |
3.講師 | 喜多加実代(福岡教育大学教育学部教授) |
講演内容
女性の就業には、①子どものいる女性の就業、②キャリア形成・転職・再就職、③若年女性(特に不安定層)の就職など、さまざまな課題があります。例えば、出産前に就業していた女性で第一子を出産後に就業を継続している人の割合は53.1%、出産後退職した人の割合は46.9%(2010~2014年)です。就業を継続している人の割合は近年増えてきているとはいえ、まだまだ少ない状況です。子どものいる女性にとって、保育所などの社会的支援はもちろんのこと、近親者(母親など)の支援が働き続けるうえで大きな助けとなっています。実際、出生動向基本調査でも、母親からの手助け、育児休業などの制度の両方を使って就業を継続している人が多い結果となっています。再就職者を含め就業継続には、友人や近隣住民より、近親者、特に女性自身の母親に頼れるかどうかが効果を持つという研究結果もあり、育児と就業との課題を考えさせるものです。
一方、第一子出産後に退職する女性が多いことから、業務・機会・地位・賃金が抑制され、そのためキャリア形成や賃金上昇への諦めから退職したり、出産を退職のちょうどいい機会ととらえる人もいるという悪循環も存在します。
女性の再就職・転職の状況については、平成24年就業構造基本調査によれば、30代半ば~50代半ばまでの初職継続の割合は、男性約50%に対して女性約25%となっています。また2011年の短大・大学卒の女性に対する調査では初職退職率は、子どものいる女性が93.4%、子どものいない女性でも78.5%となっています。2014年の東京・福岡・長崎の女性調査での初職退職率は、子どものいる既婚の女性が93.8%、未婚の女性は84.3%でした。再就職・転職に関して、ハローワークを通じた応募や直接の応募より、特に以前の職場等の人間関係を活用する方が、正規雇用率、賃金、満足度が相対的に高い傾向がみられます。男性に比べて、女性は就職に有利になるこうした人間関係が乏しく、活用もされにくいことが指摘されています。
若年者に非正規雇用が増えていることはしばしば指摘されていますが、こうした不安定雇用や経済的に苦しい若年層では、地縁的関係や近親者の存在が生活面や情緒面のよりどころとなるプラス面がある一方、それがフリーターなど不安定雇用を再生産・定着させるマイナス面も見られます。また若年者間でも男性に比べて女性の非正規雇用率が高くなっています。また、家族は育児支援などで就業を支えてくれるものになることもありますが、非正規就業の多さや稼得見込みの低さから、女性は若年でも家族の介護、家事など支援の提供者となって就業中断や無職となる可能性もあります。
このように、女性の就業においては、人間関係が就業やキャリア形成、情緒面・生活面での安定に資する面がある一方、不平等や格差をそのままにしかねない面もあり、同じ相手との関係がプラスにもマイナスにも働きうる可能性があります。現在対症療法的に使われている人間関係を過大評価することなく、必要とされる支援が何かを検討し、構造的・制度的な見直しとともに関係の醸成を図るべきものといえます。