-シャバナ・マーファス(パキスタン)
数か月前、私はパキスタン第2の都市で、文化の中心地・ラホールの混みあった通りを一人でバイクに乗る女性を見て、畏敬の念と誇りを感じたものでした。今でも誇りの感情は残っていますが、その時受けた衝撃は徐々に薄れています。
国外の読者はなぜ私がその光景に興奮したのか、不思議に思うかもしれません。実は、原理主義や保守的な考え、そして強固な家父長制に未だ苦しんでいる国では、女性が一人で、あるいは乗客を乗せてバイクに乗ることは、驚くべき偉業なのです。
なぜならパキスタンは、女性が教育や就職のために家を出るべきか、あるいは女性が男性親族の付き添いなしに旅行すべきか、また女性に自立心が芽生えることは不道徳の始まりかなどについて、いまだに議論し続けている国だからです。
そのようなパキスタンで女性の行動に変化が見られるのはなぜでしょうか。行動の変化は、直接的には男性の同行者なしに自立して旅行することを好む最近の傾向を示していますが、パキスタンの女性たちが徐々に自由を経験していることも示しています。なぜなら、近年まで、女性の人生におけるあらゆる決定は、親であれ、配偶者であれ、兄弟であれ、男性によって支配されていたからです。現在、ますます多くの女性が自立して人生を送っています。
これらはポジティブな進歩かもしれませんが、この傾向は多くの場合、貧困から抜け出し、経済的に自立する必要性から生じています。女性がバイクに乗るのは、オンライン注文の配達員という大胆な職業を選んだからかもしれません。女性が車とバイクを組み合わせたリキシャ(パキスタンの三輪自動車)に乗るのは、一家の大黒柱として収入を稼ぐ責任があるからです。
これはほんの一例かもしれませんが、パキスタンではますます多くの女性が仕事やビジネスチャンスに参入し始めています。国が巨額の負債やインフレの上昇、そして低い成長率に苦しむ中、社会の多くの女性たちが親や夫と一緒に家計を支えると決意したり、あるいは麻薬中毒の夫が収入を得られないため、思い切って独立を決意しています。
実際のところ、国の資源が脆弱なため、ほとんどの家庭の経済状況は非常に不安定で、多くの女性が自分と家族のより良い未来のために努力せざるをえない状況に陥っています。これは、自分の将来のために大学に進学する若い女性が増えている理由でもあります。
このような社会の進歩にもかかわらず、パキスタンでは女性の収入は男性より低く、その結果女性は貧しいままです。国連は、「(パキスタンの)女性の労働力率(21.5%)は、教育における男女間格差と同様、この地域で最も低い部類に入る₁。」と述べています。
このような事実は、パキスタンで女性が貧困から抜け出し、経済的エンパワーメントを達成するには、更なる進歩が必要であることを示しています₂。包摂的な政策、機会の拡大、そして何よりも社会的受容が、女性のエンパワーメントを促進し、女性だけでなくパキスタンで人口の約4割という驚くべき割合を占める貧困層の人々を助けるための重要な要因です₃。
したがって、パキスタンの路上で女性が歩いたり、バイクに乗ったり、車を運転するのを見るようになればなるほど、平等で自立した国に近づき、貧困が減少しているのです。
1 “One UN Pakistan : Annual Report 2021.” United Nations in Pakistan, 6 September 2022, https://paki-stan.un.org/en/197948-one-un-pakistan-annual-report-2021.(参照 2024-10-13)
2“One UN Pakistan : Annual Report 2021.” United Nations in Pakistan, 6 September 2022,
https://pakistan.un.org/en/197948-one-un-pakistan-annual-report-2021.(参照 2024-11-13)
3 Shaikh, Hina. “Women economic empowerment is key to Pakistan’s development.” International Growth Centre, 13 March 2023, https://www.theigc.org/blogs/gender-equality/women-economic-empowerment-key-pakistans-development. (参照 2024-9-29)
シャバナ・マーファス
教育者。出版及び放送ジャーナリズムで幅広い経験を持つ。社会的不公正、女性の権利、文化関連のトピックを執筆している。
-ザイナ・シャミーン(フィジー)
フィジーでも女性が人口の半分を占めているにもかかわらず、特に国会議員のような指導的役割を果たすリーダーになるために長い間苦戦しています。フィジーでは、政策決定の場におけるジェンダーバランスが欠けているという大きな問題を反映し、歴史的に女性の政治家の参画が遅れています。過去と現在の議員数の統計を見ると、その差は歴然です。
1999年、フィジーでは16人の女性が国会議員となり、下院の11.3%、上院の25.0%を占め過去最高を記録しました₄。しかしながら、現在の議員数は楽観的なものではありません。国会第3期(2022-2026年)では、女性の国会議員数は全体のわずか9.0%で、2022年の総選挙で獲得した11.0%から減少しています。これは、太平洋諸国での平均19.5%と世界平均26.5%を大幅に下回っています。過去2期の女性比率は若干高く、2014年の選挙後(第1期)は16.0%、2018年の選挙後(第2期)は19.6%でした。
2024年「女性のリーダーシップと政治参画」をテーマにフィジー女性模擬国会が2日にわたって開催され、多様なバックグラウンドを持つ女性58人が集いました。女性模擬国会の目的は、フィジーの政治において女性が直面する課題に取り組むことです。課題の一つは、女性議員を支援するという真の政治的意志が未だになく、単なる政策表明にとどまっていることです。
2016 年の女性模擬国会の成功に基づき、このイベントは女性が政策立案や国会手続きについて実践的な経験を積む貴重な場を提供しました。政治のプロセスを理解し、自信を高め、将来の選挙に備える実践的な機会です。特筆すべきは、2016年のイベント参加者の中から、2018年と2022年の選挙に立候補者が出たことです。そして現在、そのうちの 1人が女性・子供・社会保護大臣を務めています。フィジーの政治に影響を与えたいと願う女性にとって、模擬国会は重要な役割を果たしています。
世界経済フォーラムによると、2024年のフィジーのジェンダー・ギャップ指数(政治分野)は140位です。₅
クオータ制を国会で実施することは、ガバナンスと女性の政治参加の改善に向けた重要なステップになるでしょう。クオータ制は、根強い家父長制の規範に対する完全な解決策ではありませんが、意思決定プロセスに女性の参画を増やす実用的な方法です。女性に最低限の議席を確保するクオータ制を導入することで、歴史的な不均衡に対処し、国会で女性の声がより効果的に聞き入れられるようになります。
このような改革によって、ガバナンスが国民の多様なニーズに柔軟に応えられるようになりえます。例えば健康、教育、社会福祉などの重要な問題に対して女性の視点が十分に反映されていないことが多々ありますが、クオータ制の導入によりこのような不均衡が是正されえます。
国会に女性議員が増えれば、国民全体の利益をより一層反映した政策が生まれ、より包摂的で公平なガバナンスが促進されるでしょう。しかし、クオータ制だけでは根深いジェンダーバイアスや構造的な不平等を完全に変えることはできないかもしれません。これらの問題に多角的に対処するには、より広範な取り組みが必要です。
ただ、ジェンダー格差が依然として大きいフィジーの状況では、国会でクオータ制を採用することは、より広範な社会変革を促進し、ガバナンスの有効性を高める可能性があります。したがって、クォータ制を採用することは、より公平で代表性のある政治環境に向けた重要な一歩となるでしょう。
国会におけるクオータ制は前進への道となり得ますが、より包摂的な政治環境を作るための大きな戦略の一部でなければなりません。
4 Parliament of Fiji – Women’s Representation in Parliament: https://www.parliament.gov.fj/women-have-always-been-under-represented-speaker-hon-ratu-naiqama-lalabalavu/
5 Global Gender Gap 2024: https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2024.pdf
ザイナ・シャミーン
エンジニアリング会社に勤務。政治や国際情勢、女性問題、男女平等、包摂性に常に強い関心を持つ。